死合わせ

2003年11月14日

まあそんなこんなでね、先週の11月6日をもって、「22歳のゴミ」から「23歳のゴミ」へと華々しいクラスチェンジを遂げた俺だ。これまでの俺が、スターにしきのの衣装の、両腕についてる何かよく分からない大量のヒモだったとするならば、今の俺は、ジュディ・オングが「魅せられて」を歌う時に着る衣装の、両腕に付いている何かよく分からない膜状のビラビラだ。圧倒的進化。線から面へ。1次元から2次元へ。言ってる俺もサッパリ意味が分からないけど、とにかく俺はなったのだ、なってしまったのだ、23歳に。何故かまだ大学三年生の、23歳に。

そしてそんな俺を祝福するかのように、我が家には連日、俺宛の手紙が怒濤の勢いで送られてきている。ありがとう、みんなありがとう。お陰様でこんなに大きく育ちました。大きいだけのクズに育ちました。ありがとう、ありがとう。誕生日から一週間が経過した今も変わらぬペースで手紙が貰えるなんて、俺って男は幸せ者です。世の中って、もっと寒風のむせぶ人外魔境で、人の温もりなんてものは、「雪山で遭難したのに、暖かいものが、長時間起動した時のファミコンのアダプタだけ」って状況の時の、そのアダプタ程度の頼りなさの、あるんだかないんだか分からないレベルの、半ば幻のようなものなんじゃないかって思ってたんだけど、そんなことなかった。世の中は優しさと温もりに満ちていた。花々は赤に黄色に咲き乱れ、鳥たちは青空に歌い、人々は緑の草原を駆け抜ける。俺は爽やかに広がるアルプス山脈の狭間で、巨大なブランコにまたがり、西に揺れては幸福を歌い、東に揺れては愛を歌い、やがてクララは立ち上がる。なんて素晴らしいこの世界!

というわけで、多数のお祝いが届いているので、ここでその中から何通か、ここでご紹介させて頂きましょう。まずは、かの有名な航空会社、ANA 様から。大企業からの祝辞なんて、本当に光栄ですね。タイトルは、「コックピットへの招待。」おやおや、ひょっとして、誕生日記念に飛行機を操縦させてくれちゃうのかしら。お兄さん曲乗りしちゃうぞ。はは。まあそれはともかく、中身を読ませて頂きましょう。「3万5000フィートの空へ、ようこそ。 ANA では、広く一般の大学生にその門戸を広げ、自社養成パイロットを募集いたします。最先端の技術が注がれた飛行機を操り…」ってこれ祝辞じゃないですね。なにこれ。勧誘? ひょっとしてマルチ? うちはそういうのお断りなんだけど。やめてくれませんかね。折角のお祝いムードが台無しだよ。俺は祝辞を読もうとしてるわけ。分かる? ANA だか ANAL だか知らないけどさ、訳の分からないもん送りつけてこないでよ、迷惑だから。あーあ、興ざめだよ。全く。まあ読んじゃったもんはしょうがないよね。気を取り直して次の手紙に行こう。

というわけで、今の不愉快なダイレクトメールはシカトして次。ちょっと手違いでね。すいませんねどうも。えー、それでは、今度は農林中央金庫様から。おおっと銀行ですよ。やばいね。さすがに経済界はこの俺を見過ごしちゃくれないね。重要人物だからね。ビップ。そりゃ誕生日に手紙の一通も寄越さないわけにはいかないよね。封筒の表面に「感じ・考え・応える」って書いてあるからね。これどういう意味か分かる? お前らボンクラには分からないかも知れないけど、これは「岩倉様の金銭欲を鋭敏に「感じ」、我々がどのようにすればいいか「考え」、岩倉様の金銭欲に全身全霊を賭して「応える」」ってことだよ! それ以外考えられないだろ! やっべーな、多分そろそろ俺の口座に巨額の振り込みあるぞ。ついに俺も富豪か。ごめんなみんな。お先に〜! まあいいや、それでは祝辞を読むことにしよう。どうせ小切手とか入ってんだろこれ。楽しみ。えーと、「学生の皆さま、はじめまして、農林中央金庫です。このダイレクトメールは、就職活動を行おうとしている皆さまへ向けての私たちからのメッセージです。学生から社会人という大きな門出に立たされている皆さまの、心のとまどいや不安を少しでも払拭し…」ってまたこれかよ!! てめーらいい加減にしろよ。今は俺の誕生日祝いの手紙を読む時間だっつーの! 二行目でいきなり「ダイレクトメール」って単語出ちゃってるじゃねーかこれ! 人を馬鹿にするのも程々にしろよ。あのな、前も言ったけどな、俺はな、確かに大学三年だよ、本来なら就職活動真っ直中であろう時期を迎えている、正真正銘の大学三年だよ! だがな、人にはそれぞれ事情っていうものがあるんだ。就職活動したくても、どんなにしたくても、深刻な事情によって出来ない人がいたとして、その人に「ちょっくら就職してみない?」などと DM を送りつけることが、どれほどの悪行か、貴様ら企業は考えたことがあるのか。これはね、もう犯罪スレスレですよ。限界間近。世が世なら奉行に直訴しに行くレベルの、途方もない精神的苦痛、過度のストレスに晒されるわけですよ。就職活動できない事情が、例え、「大学に行かなさすぎて単位が全然取れてないから、卒業見込みがもらえなくて就職活動できねー!」っていう、史上最低の理由からくるものであったとしても、その辛さは変わらないのですよ!!!! ああ、俺がそうだよ!! 単位、たらねーよ!! 就職活動、大学三年だけど、できやしねーーーーーよ!!! そんな気の毒な俺に、こんな量のね、こんな量っつっても二通だけども、あんた、トリカブトの根っこを二つ丸飲みにできる? 出来ないよね、死んじゃうもんね。それと一緒でね、たった二通って思うかもしれないけど、されど二通。正直言って致死量超えてる。精神的致死量を大幅に上回ってる。マジで勘弁して下さいよ。ほんと。しつこいようだけど、今は俺の誕生日祝いを読み上げるコーナーなんだから。ね。折角送ってもらっておいてなんだけど、次からは破り捨てるからね。ビリビリに引き裂くよ。覚悟しとけよ。

ってことで、なんかごめんね、色々邪魔が入っちゃってね。今度こそ本当に祝辞、本物、のはず! いや〜どんな内容なんだろう! 楽しみやわ〜! えーとこれは、どこからだろう、おおっとみずほ銀行! 天下のみずほ銀行から…………………

もういい加減みんなウンザリだよね。しつこいよね。多分半分くらい読んだ時点で全ての展開が予想できてたと思うけど、お察しの通り就職の資料しか来てません。軽く20は来た。こないだも書いたわけだけど、ほんとマジでやめてよ。人の嫌がることすんなよ。一日に二通も三通も届くってどういう事なんだよ。それを親から手渡される時の俺の気持ちをちょっとは考えてくれ。千々に引き裂かれんばかりに乱れる俺の心を察してやってくれ。頼むよ。人の痛みが分からない人って、アタイ、嫌いだな………・。

Posted by iwakura at 03:35