真っ暗闇の状態に置かれると、人間の目というのは、少しでも多くの光を集めようと、瞳孔を全開にするようにできている。そこへいきなり、例えばスポットライトなどで直接強力な光を当ててしまうと、たったそれだけで人は失明してしまう。恐ろしい話だね。みんなも気を付けよう。
さて、今日はついに例の、「大邪悪」が徐々になまり、「だいじゃあく」「だいがぁく」「だいがく」と呼ばれるようになった、という伝説でお馴染みの「大学」とかいうカオスプレイスに行ってきたわけだが、見事に失明した。正確に言うと心が失明した。俺の心の目の網膜が焼かれた。つまりどういう事かというと、家に引きこもって暗澹たる毎日を送っていたこの数ヶ月で、俺の心の目は、ほんの些細な事柄でもどうにか感知しよう、何とかして感じ取ろう、という、心の瞳孔全開状態だったと思われるのだけれど、そのまま心の準備もなしに新学年最初の授業というフレッシュ極まるイベントに臨んでしまったので、一人黙って音楽を聴いている俺の周囲で、若さと覇気と希望に満ちた笑顔で語らうヤングメンからほとばしる、真夏の太陽の如きポジティブ光線が、俺の無防備かつ疲れ切ったハートにクリティカル・ヒット! ギャーッ! 眩しい! そう思った次の瞬間には、俺の心は完璧に閉ざされていた、というわけさ…。クローズドマイハート。オレトオマエラハ、マッタクチガウニンゲン…。イッショウ、ワカリアエナイ…。
また、大学在学5年目にして未だに1年か2年で取り終えるような一般教養をゴッソリ残している俺は、本日の経済学だかなんだかの授業で、更なる地獄を見た。周りにいる連中が若すぎる。こいつらが現役で入ってきたとしたら今年度で19歳。俺は今年で24歳。あれーっ!? 5歳差!? 俺が小6のときにこいつらは小1!? 小1と同じ授業!? 何をどう考えてもおかしい。余りにも若すぎる。しかも授業開始1日目だというのにもう談笑してやがる。どういうことだ。一人寂しそうに緊張している若造もいるにはいるが、ほとんどは俺と似たような空気を発散する負け組ど真ん中さんなのでそれはそれで辛い。なんで俺はこんな所にいるのか…。携帯 MP3 プレイヤーの音量アーップ! 周りでは誰も喋っていない、いいやそもそも誰もいない、と自分に言い聞かせていると、教授が入ってきたのでイヤホンを外した。みんな滅茶苦茶喋ってる。バカヤロウ! 教授のありがたい授業が始まるんだぞ! 黙って聞け! しかし黙って聞いてみたら余りにもつまらなくて腰が抜けそうになった。「自分の苗字が珍しい」という話題だけで30分引っ張りやがった。いい加減にしろ! 業を煮やした俺は、寝た。すやすや。寝てる間って世界に一人きりっぽくなれて最高ッスね!
そして次なるは2年連続で「受けても無駄だな」と悟ってテストをさぼり通した必修授業の再履修クラス。無闇に遠い場所にある校舎へ「これが再履修組への仕打ちか…」とげんなりしながら向かい、教室に入ると、そこには何故か居心地のいい空気が! うわあっ! 教室にいるやつ全員からクズの気配がする! すごいここ! 宇宙規模の駄目人間の巣窟! 素晴らしい…! まず教室を見渡しても俺を含めてオシャレな人がただの一人もいないという事実。イケてる! ポニーテールにしているデブ野郎、シャツ入れファッションのザ・アキバ、母親が買ってきたとしか思えないようなグレーのシャツ男、「一番興味のない単語は「コスメ」です!」と言わんばかりの無造作ガール。全員目に光がない。なんということだ…ここはまるで…我が家…。ところが安心している俺を牽制するかのように、教授は留年することのデメリットについて延々と語る。あんまりだ。分かったからもう許してくれ…。お願いします…。すると祈りが通じたのか「今日は最初の授業だからもう終わるね」ということで解放。鬱屈とした気分で帰路につく。電車に揺られながら、「今日は大学で一度たりとも音声を発していない」という事実に気付き、心は暗雲に覆われた。大学の 清きに岩倉住みかねて 元の濁りの我が家恋しき。明日も頑張るぞ。