今年の俺が何よりも優先しなければならないもの、それは大学。大学で教授様方のありがたい講義を拝聴するためならば、両親を質に入れることも、家をヤクザに明け渡すことも、友人を生命保険に入れて紆余曲折あって大金を手にすることも、教授の欲望のはけ口に自ら志願し夜伽に精を出すことも、その他様々な苦難・苦痛にも必ずや耐えてみせる、そんな気概でもって迎えたこの新年度であったのだ。ところがどうだ、ここしばらくの俺と来たら、水曜と金曜は丸ごと全てサボり倒したり、授業の8割は寝ていたり、全くノートをとらなかったり、そもそもペンケースがなかったり、今までとまるで変わらぬゴミ学生ぶりではないか。こんな事でどうする俺、俺よ目覚めよ。覚醒せよ。刮目せよ。開悟せよ。解脱せよ。輪廻せよ。転生せよ。そして登校せよ! 出席せよ! 受講せよ! 勉強せよ! 単位…………取得せよーッ!!
カァーッ! かようにして俺は先日悟りを開いた! そして友人に聞かされた! 「次回のネットラジオは日曜の夜から月曜の朝にかけてやるので来い」と! 何だとーッ!? 言! 語! 道! 断! ハァーッ! (青龍刀で友人を両断) 我を今までの岩倉と思うなかれ、只今より我は古今無双の勤勉大学生、岩倉・ネオ・ユニバースと化す! ラルク・アン・シエーーーールッ! (気合いの雄叫び) というわけであるからして、大学を優先するゆえラジオには欠席致す! 月曜に何の予定もないクズどもだけでネットラジオとやらに興じておくがいい! ハーッハッハッハッハッハ!
このようにしてこの世に爆誕した岩倉・ネオ・ユニバースであったが、ラジオ当日、ちょっとした気の緩みから夜の11時までラジオとは別の友人宅でダラダラと過ごしてしまう。しまった、我輩としたことが何たる不覚。このままでは明日からの完璧な大学生活に尋常ならざる支障を生ぜせしめてしまう。いかぬいかぬ、我輩はこのような所で力尽きていいような男ではないのだ。何としても日付が変わる前に帰宅し、早々に支度を調えて床に就かねばならぬ。そういうわけであるから、友よ、おさらばえ。あちきは家路を急ぐでありんす。もうキャラが滅茶苦茶だけどとにかく急いで家に帰るべく電車に駆け込んだのだった。
首都圏に降りた夜のとばりを引き裂くかのように、電車は闇の中を走り抜けていく。向かいの窓から外を眺めれば、街はもうすっかりその機能の大半を停止させ、また明日から訪れる気ぜわしい日常に備えるかのように、穏やかに静まりかえっている。ふと、考えた。この目に映る景色の中で、一体どれだけの人々の生活が営まれているというのだろう。ある人は笑い、ある人は怒り、またある人は泣いているかも知れない。数え切れないほどの人々の感情が集まり、それが街を作り上げている。そしてその街が集まり国を作り、国が集まり世界を作る。この街ですら今の自分は一望できず、電車の窓で切り取られた一部分を漫然と眺める以外にない。だとしたら国は、そして世界とは一体どれほどの大きさだというのだ。なんとも、世界とは想像もつかないほどの広がりと厚みを持っているものではないか。
気がつけば私の頬には大粒の涙が伝い、低く、くぐもった嗚咽が喉の底から響き、鼻水は白糸の滝の如く優美に垂れ下がり、失禁し、腰は物理的に砕け、知らぬ間に衣服は悪漢にはぎ取られ、生まれたままの姿で、私は人間というものの小ささ、ちっぽけさを知ったのだった。自分という存在がここまで小さいのだとしたら…そう、大学、なんていうものは…。この時、岩倉・ネオ・ユニバースという個体はその一生を終えた。それと同時に転生した。我こそは岩倉・ビビッド・カラー。大学なんてナマコのアナルよりちっぽけで、どうでもいい存在ではないか。そんなものは糞食らえだ。何より大事なのは、こんなちっぽけな俺の心の中で、とても見過ごすことが出来ないほど、それこそこの世界なんかよりもおっきく膨れあがってしまったこの気持ち、そうさ、「ラジオやりたい」、この魂の叫びに素直に従うことなんじゃないのか。そうだろう。そうに決まってる。
俺はその足で友人宅へ直行し、ネットラジオに合流した。そして、友人のチンポに低周波マッサージ機をあてがって徐々に揉む強さを強めたり、別の友人のチンポにタバスコを塗りたくったり、友人の金玉を掃除機で吸ったり、頼んでもいないのにチンポを見せてくる友人に唖然としたり、その一部始終を100人近いリスナーに向けて発信したり、無闇に怖い話をして怯えたりして、朝を迎えたのだった。楽しかった。俺は、間違っていなかったのだ。
午前8時、大学の始業の50分前の事だった。岩倉・ビビッド・カラー、就寝。次に彼が現実世界へ帰ってくるのは、大学の授業が大方終わりを迎えた午後2時半の事である。絶望と後悔が支配するその現実を実感するその時まで、安らかに眠るがいい、岩倉よ…。
って言うか、なんだろ、そろそろ死にたい。ここをご覧になってる方にゴルゴ的なスキルを所有している方がいらっしゃいましたら、僕には内緒でドタマを一発狙撃して下さい。何の苦しみも恐怖もなく死ねるはず、理想的。報酬は僕が調子に乗って買ってしまった大学の教科書です。特にオススメなのが「確率モデル入門」。爆笑の一冊です! (微塵も理解できない自分の脳味噌が笑いどころ! って、アチャ〜、ネタバレしちゃった〜! メンゴメンゴ〜!)