まばたきをしてる間に2ヶ月が経過した。ちょっとまぶたを閉じてみたら5月が終わり、そのまま目をつぶっていたら6月も過ぎ去り、そして、今、ゆっくりと目を開いてみたら、七夕すら終わっていたのだった。というわけだから6月あたりの記憶がない。何をしていたのか全く思い出せない。もしかしたら実際にまばたきしかしてなかったのかも知れない。少なくとも「1ヶ月間延々まばたきだけ」と同程度の密度でしか日々を過ごしていなかったのは確かだろう。いや、そんなことは本当のところどうでもいいのだ。重要なのは、俺が、ついに2ヶ月間、一度たりとも大学に行かぬままこの時期を迎えてしまったという事実。いよいよ近付いてきたテストを前にして、俺は、簀巻き状態で線路の上に縛り付けられたような絶望の中にいる。夏の日差しに焼かれながら、身動きも取れず、ただ、背中越しに伝わる鉄の振動に怯えている。列車は、もう、すぐそこまで来ている。俺をこんな目にあわせた黒幕が存在するのなら、そいつに恨み言を言いながら死ぬこともできようものだが、実に救いのないことに、自分を簀巻きにしたのも、線路の上に縛り付けたのも、他ならぬ自分の仕業なのだった。え? 自分で自分を簀巻きにしたりできるのかって? できる。つまりこういうことだ。今、俺の内面では、迫り来る超特急「テスト号」に引かれそうになっている自分がいるわけだが、この自分は、言うなれば「エンジェル俺」なのだ。頑張ろう、やってみせるぞ、ファイトだぜ、などと俺を鼓舞し、プラス方面へと駆り立てる正義の心。ただし蚊の鳴くような声でしか話せない。軽くチョップしただけで泣く。当然、発言力は皆無に等しい。そんなエンジェル俺をいじめにいじめ抜き、とうとう、今回の殺害計画を企てるに至ったのが「俺デーモン」である。エンジェル俺は、奴が作り出した「めんどくせーよ縄」「どうせ無理だって手錠」「来年やればいいじゃん猿ぐつわ」などの、シンプルかつパワフルな邪念の拘束具で身の自由を奪われているのだ。つまり、俺は、俺に殺されようとしているのだった! などと言うと被害者っぽくて哀れでいいが、視点を変えて見れば、俺は俺を殺そうとしているのだから加害者でもあった。それに、拘束具から抜け出すチャンスなどいくらでもあったのだ。だがエンジェル俺はあまりにも力が弱く、「足下に落ちてるゴミを、そこにあるゴミ箱に入れようよ」という指令すら満足に通せないような情けない男なので、「ちょっと大学に行ってみよう」「今ならまだ間に合う」などの、拘束具をはずすきっかけとなりえる言葉も、うつむきがちにボソボソつぶやくばかりだったので効果がない。だから、こう言ってはなんだけど、ここまで事態が悪化したのは、エンジェルの方にも責任があるとも言えるのだ。だからエンジェルもデーモンも、どちらにも反省すべき点はあると思うのだけれど、どうだろう。っていうかまあ要するに俺が全部悪いんだけどね。自分の中のいい心と悪い心を擬人化して話を誤魔化そうとしたけど無理だった。「どうだろう」とか言ってる場合じゃない。「エンジェル俺」って何だよ。バカか。「俺デーモン」? え? しかも結局両方悪いの? 意味ねーなおい。初めから素直に反省しろよ。要するに岩倉っていう一人の人間の責任だろ。心の中に別の人がいるような言い方をするな。真面目にやれ。とか言ってるけどまあぶっちゃけ今も口ばっかりで全然反省してないけどね。マジ興味ない。どうでもいいよウンコって思ってる。バカヤロウどうでもよくねーんだよ。しっかりしろ。分かってる分かってる。でも分かってない。全然分かってない。それでも分かってるつもり。分かってはいるが分かってない。リクツでは分かっても、ココロが…。この心の矛盾、まるで恋のよう。俺はもしかしたら、大学に抱かれたいのかも知れない。優しく、「もう、悩まなくたってええんやで…」と、抱きしめて欲しいのかも、知れない…。All I need is...... love.......。