OMR 2

2003年05月20日

(続き)

様々なコンプレックスから生ずる憂鬱さと漫画回し読み大会の楽しさを天秤に掛け、どうにかギリギリで漫画回し読み大会を選ぶに至った私でしたが、スケートボードを華麗に乗りこなすストリート系ボーイや、常識などという足枷はとうの昔に捨て去ったゴシックロリータ系ガールの皆様でごったがえす道のりを、大量の漫画を携え歩くという行為は、想像していた以上に困難なものでした。道行く人達が全員オシャレに本気なので、それぞれから発されるオシャレさん特有の波動、これを私は「オシャレウェーブ」と呼んでいますが、その濃度が半端ではないのです。「オシャレさん-オシャレさん」の組み合わせであれば、互いのオシャレウェーブを中和し合うので、容易に接近・接待・接吻・接続が可能ですが、「オシャレさん-非オシャレさん」の場合、オシャレウェーブを発する事が出来ない非オシャレさんは、オシャレさんの発するオシャレウェーブに気圧され、たちまちのうちに精神的圧迫感を感じ、逃亡します。そこで逃亡しない場合、精神圧が臨界点を突破し、自我の崩壊と共に発狂します。ですから、周囲にいる人間が全てオシャレカウンター爆発レベルのオシャレさんであった場合、非オシャレさんの身にどのような悲劇が起きるか、どれだけの惨事が待ち受けているかは、想像に難くない事と思います。私がいかに絶望的な状況に置かれていたか、お分かり頂けたでしょうか。

このままでは座して死を待つのみ、そう悟った私は、この場に仲間がいないのであればせめて声だけでも、と、主催の相沢に電話し、同志の集合場所、同志の人数、同志の読書状況、同志の持ち寄った漫画情報、その他諸々の同志トークにより、自分の中の「仲間がいるし大丈夫感」を大幅アップ、それと同時に、電話に意識を集中する事によって視覚情報を極力シャットアウトし、周囲におわす小憎たらしいオシャレさんどもを内面的に抹殺するという画期的作戦に打って出る事を決意しました。これは名案! 岩倉天才! そうと決まれば早速電話です。自慢のカメラ付き携帯(おしゃれでしょ! ボクだって負けてばかりじゃないですよ!)で相沢にレッツテレホンです。もしもし。「おかけになった電話は…」。留守電でした。主催者の電話なのに、留守電でした。一体どういう事なのでしょう。私にとっては命に関わる一大事なのです、出て頂かなくては困ります。このままでは、大量の漫画を持ったまま路頭に迷い、オシャレウェーブに打ちのめされているところを暴漢に襲われ、財布と漫画と尻を奪われ、生きる希望を失って自害する羽目に陥ってしまいます。それは大変困るので、何とか策を講じねばなりません。ようし…。

背水の陣を敷き、藁にもすがる思いで他の参加者様に電話をかけてみたところ、あっさりと繋がりました。2コールくらいで繋がりました。私はそれまで、どこかで主催の相沢を信じていたので、「突如として代々木公園に強力な電磁波が発生し、電話が繋がらない状況になってしまった」、「どこからともなく現れた山賊に身ぐるみはがされてしまった」などの、やむにやまれぬ事情があったのではないかと思っていたのですが、他の参加者様が余りにも平和な声で電話に出て、「噴水のあたりにいます。結構歩きますよ。」などと仰っているという現実を鑑みるに、相沢の携帯が留守電だったのは明らかに相沢自身の過失です。私の相沢を信じ愛する心は、このような形で裏切られてしまったのでした。しっかりしろ主催者。

ともあれ、集合場所は判明しました。漫画回し読み大会は、代々木公園のほぼ中央に位置する、噴水のある池周辺で執り行われいるとの事。そうと分かれば私の足取りも軽くなります。無闇やたらに小回りのきく小さい自転車を巧みに使いこなし曲乗りを披露する若者や、名前も知らないような打楽器を黙々と鳴らしている若者、毛並みのいい犬と楽しげに散歩する若者、フリスビーを投げて笑い合う若者など、活力に満ちあふれ、今まさに青春真っ只中! といった雰囲気のヤングメンで溢れかえっているこの代々木公園ですが、私ももうそれに気後れなど感じません。何故なら、こんな私にも、私の到着を心待ちにしてくれている仲間がいるからです。友情です。恐らくは、努力と勝利も私を待ちかまえている事でしょう。つまり前途は洋々です。居場所があるというのは、何と素晴らしい事なのでしょうか! 希望と熱意に燃えてくる心、決して挫けぬ強い意志をたたえた瞳、重い荷物をものともせずに振り上げられる両の腕。私を構成する全ての要素が俄に沸き立ち、自然と、自らの光に溢れた心情を詩に綴りだしてしまいます。

Shining ray Find your brand new way.
永遠(とわ)の太陽に手を伸ばして
過去を悔やむより 現在(いま)を確かめていたい

本能に従い素直な言葉を書き連ねたところ、 Janne Da Arc の Shining ray に酷似したポエムとなってしまいましたが、全くの偶然です。酷似というか一字一句違わず、まるでコピペしたかのようですが、断じて違いますので誤解のなきようにお願いします。見ようによってはこういったページを参考にしたかのように見えますが、錯覚です。人間の目というのは案外騙されやすいものなのです。

高尚な詩を吟じているうちに、ようやく噴水のある池まで辿り着きました。電話によれば、この池の近辺で我が同胞達が漫画を読み耽っているはずです。はてさて一体どこにいるのやら…。と周囲をキョロリキョロリと見渡してみますと、まぶしくきらめく噴水の向こう側100メートル、池の対岸にて、何やら7名ほどの男女が揃って下を向いて座っているのが辛うじて見て取れます。もしや…。私の胸は期待に高鳴り、出来うる限りの早歩きで、池の向こう側まで水際に沿ってぐるっと迂回していきます。そして徐々にその集団に近づくにつれ、期待は確信へと変わります。若い男女が微動だにせず、座ったり寝転がったりしながら黙々と漫画を読んでいるのです。アクティブな若者が集いほとばしるパッションを炸裂させているポジティブパーク・代々木公園において、それは全く異質な存在でした。高級フランス料理屋におーいお茶が置いてあるような、そんな絶望的なまでの場との乖離感。そうです、これなのです。これこそが私の求めていた空気、私が欲してやまなかったしょうもなさなのです。

どうやら集団の方も私に気がついたようです。こちらをチラチラと窺っています。きっと大歓迎してくれるはずです。何しろ待ちに待った新たな同志ですし、それに漫画を大量に持ってきているわけですから、これで歓迎しない道理がありません。もしかしたら、一人くらい嬉しくて泣いちゃうかも知れません。それもいいでしょう。私は優しく微笑み、その人を抱きしめてあげる事でしょう。これこそが同胞愛です。何と清らかで美しい事でしょう。素晴らしい!

そして私は荷物を置いて、にこやかに挨拶しました。「いやいやいや、どうも、こんにちは!」会心の出来です。嫌みがなくまったりとし、それでいてしつこくなく、豊かな味わいがいつまでも続く逸品です。これに先客の皆様の歓迎の言葉が加われば、これは「挨拶と歓迎」という名のアート、芸術とすら言えるかも知れない、至高のコミュニケーションと言えましょう。さあ、遠慮せず、心から歓迎して下さい!

「あ、岩倉きたよ」
「ふーん」
「あー」
「どうも」

え、それだけ。

(続く)

Posted by iwakura at 23:08