マンガアワード2003

2003年12月22日

というわけでマンガアワード2003。バイトの最中に考える暇がなかったので、ウンウンうなりながらぶっつけで書こうと思う。今までなかなかマンガアワードについて書き始められなかった原因の一つに、「ものすごく面白い漫画を書き忘れたらどうしよう」という不安があったのだけれど、もうそんなこと心配に思ってる場合でもないので勢いで! ビシバシ! 書いていけたらなと! 思います! では発表〜。

1位 「シュガー」 新井英樹

ダントツ。「人を食った態度」というのはこの漫画の主人公のためにある言葉。有無を言わせぬほどの才能を持った人間が、才能の持て余しがてら、あらゆる凡人を小馬鹿にしつくしていくのだけども、その挑発の名調子ぶりが実に素晴らしく、読んでるだけのこっちにしてみれば痛快極まりなくて最高。さんざん相手を煽って、余裕を見せつけて、激怒させて、それでも大抵の場合、天才だから圧勝しちゃうのだった。ひどいね。それでもこの主人公が単なる嫌な奴で終わっていないのは、時折目の前に現れる「本物」を認める素直さとか、普段は飄々としながらも、時折見せる、ボクシングが好きでしょうがない、という少年らしい態度があるからだと思う。その主人公を取り巻く、一癖も二癖もある、とかいうとすごい陳腐だけども、まあ実際一癖も二癖もあるんだからしょうがない、とにかくそういう脇役陣も、新井英樹的な魅力が満載というか、その辺の漫画に出てくる「とりあえず変な奴出しときゃいいか」感の溢れる適当なキャラではなくて、血の通った変人、漫画で描かれていない、普段の生活までもが活き活きと想像できるような、人間臭いキャラクターばかりで、物語の面白さにヤバいくらい拍車がかかっている。新井英樹は俺の一番好きな漫画家なわけだけども、その新井英樹作品の中でも最高に好きな漫画。癖があって胃が重くなるような、ある種の覚悟を必要とする漫画を描いてきた新井英樹が、本気でエンターテイメントすると、ここまで凄い作品になろうとは。この漫画が終わるまでは死ねない。というか読んで欲しすぎる余りに紹介文みたくなってしまった。失敗。とにかくあれだ、要するに、今年一番面白かった。

2位 「最強伝説黒沢」 福本伸行

なんかみんな挙げてるんでやりにくいんだけど、それでもやっぱり書かざるを得ない。OHP の月極アンケートで、「こわいまんが」 というテーマがあったのだけど、「座敷女」や「漂流教室」などの定番が立ち並ぶ中で、この「黒沢」が堂々の9位にランクインしていて、ちょっと笑った。笑ったけれど、でも俺も「黒沢」は怖いと思う。「漂流教室」と同じレベルで怖い。そして、関東大震災とタメを張るほど怖い。銀行強盗で人質になるのと同様に怖い。「黒沢」を読んで何の危機意識も持たない奴なんざ話にもならない幸せ者、別人種だと思う。けれども、「黒沢」を、完璧に我が事のように感情移入し、黒沢の一挙一動に自らの過去や未来を重ね、本当の意味で怖がり、心を痛めて読んでいる人もまた、俺とは違った感覚を持った人なのだと思う。「黒沢」は怖い、確かに将来あんなみじめな中年になる可能性が皆無でないことを考えると、面白いばかりではなく怖いと思う、思うがしかし、それはリアリティのない、ストレスをほとんど感じさせない怖さであるようにも思う。結局のところ、俺にとって「黒沢みたいになったらどうしよう」という不安は、「関東大震災が起きたらどうしよう」という不安と同程度のもので、今、胸を痛めるほどに感じ入るようなものではないのだった。世の中には交通事故や病気などの怖いものが山ほどあるけれど、それの一つ一つに現実味を感じていちいち神経を尖らせていたら人間は気が狂ってしまう。だから、自分から縁遠いと思われるリスクについては、その場ではちょっと怖いと思って「怖いね〜」とか言いながらも、少しすれば全然怖く思ってなかったりしてるわけで、「黒沢」もその例外ではないのではなかろうか。むしろ、「黒沢」を読んでいると、「黒沢」レベルまで駄目になっていくまでの過程、俺が自分の状況に照らし合わせるならば、その第一歩は大学中退であるわけなのだけれど、そういった身近な不安に自然と意識がパンして、ただならぬストレスを感じたりする。そうなると思考はネガティブ螺旋階段を歩き始め、今の俺の場合、年明けに待ち受けるテストに思い至り、ネガティブエクスプロージョンが起きて「もう死にたい」となったりするのだった。現に、今、胃が痛い。そういう点から見ると、俺は「黒沢」について考えるたび、結果としてはただならぬ精神的苦痛を味わっているので、やはり、「黒沢」はとても怖い作品なのかも知れない。

3位 「サトラレ」 佐藤マコト

サトラレがこの世にいないことは紛れもない事実なわけだけれど、それでもたまに、本当にしょうもないこと(「ウンコの柔らかさと臭いの関係」など)を真面目な顔して考えてしまった時、「ああ、もし自分がサトラレだったら、自分がこんな馬鹿なことを考えているというのが電車の中の連中にバレバレだ」みたいに思ってしまって、しまいには「まあ心を覗かれてるなんて分かってるけどね」とか一人で心の中で強がったりなんかして、これぞ馬鹿丸出しという感じなのだけれど、「サトラレ」という漫画を読んだ人の多くは、程度の違いこそあれ「自分がサトラレだったら…」みたいに考えたことがあるはず。作品内で「サトラレというのは天才だけがなる」という説明がなかったら、「でもやっぱ俺って天才じゃないしな」というブレーキがかからず、単行本3巻で出てきたサトラレ症候群みたいな人が大量に現れたんじゃないかというくらい、「サトラレ」という設定は秀逸で、人間の心の隙を突いたものだと思う。っていうか日本に一人か二人くらいは本気で自分をサトラレだと思ってるキチガイがいそう。まあだからそういう見事な設定の時点で「サトラレ」の面白さの数割は約束されたようなものなのだけれど、それよりも何よりも、丁寧な話作りが素晴らしくて、サトラレと、サトラレを取り巻く人々の喜びや苦しみが、過不足なく、あの手この手で描かれているからこそ、「サトラレ」という漫画はあそこまで面白いのだと思う。

4位 「いちご100%」 河下水希

もう正直言っていい加減うんざりで、真中のどっちつかずぶりには怒りを通り越して殺意、いや、最近はそれすらも通り越して諦観の情らしきものがうっすらと湧いてきており、恐らく河下先生も半ばどころか9割くらいはヤケクソで新キャラ出したりお色気シーン描いたりしてるんだと思うのだけども、それでも何故か、不思議なことに、単行本で読むと、その怒濤のお色気シーンの嵐、「良くもまあ考えたもんだ」と呆れかねないほどのシチュエーションの波状攻撃にトリップし、正常な判断能力を失い、あってはならないほどの多幸感に包まれてしまうのだった。この作品を一言で表すならば「茶番」であって、読者は最初、「バカヤロウいい加減にしろよ」と心のどこかで思いつつも、その出来レースのような絶望的ご都合主義ストーリーに敢えて没入し、河下先生の手のひらの上にわざわざ自分から乗り込んで河下ダンスを踊り始める。ところが、意識的に始めたはずの河下ダンスは、やがて何者か(まあ明らかに河下先生と編集者)に操られるかのようにリズムを上げていき、自分でも知らないうちに、祖父母が見たら「孫が狂った」とうろたえかねないほどの強烈なブレイクダンスへと変容していく。この状態では、狙い澄ましすぎたさつきのお色気シーンや、あまりにもあからさまな西野の気のあるそぶりなどの、正常な読者が怒り出しかねない要素に対して、恥ずかしげもなく「ウオーッ!」などのプリミティブな反応をし、あろうことかそれが楽しくて仕方がなくなってしまうのだった! 恐るべきは「いちご・ハイ」(たった今命名)である。これからもいちご100%から目が離せないが、別に単行本を読んでいない今の状態の俺に言わせると、「そろそろいい加減にしろ」という感じであることも付け加えておきたい。

5位 「アクメツ」 田端由秋+余湖裕輝

最高。最高に滅茶苦茶。「何十人にも分身できる能力を持っている主人公(単行本5巻まで出ているが、今のところ何故分裂できるのかの説明は皆無)が、政治家や銀行のお偉いさんや警察の責任者などの、権力のある悪者を問答無用でブチ殺していってクリーンな日本を目指す」という、世が世なら特高にしょっぴかれて速攻で死刑に処されるような内容。なんだこの狂った漫画は、と思いつつも、死ぬほど悪そうなツラした権力者が泣いて命乞いをしながら殺されていく様子は、何だかんだ言ってとんでもなく爽快。正直胸がスッとする。低俗な思考回路とは分かりつつも、やっぱ権力者が酷い目にあったら楽しいよね。えへへ。5巻に出てきてる政治家とかどこからどう見ても亀井静香だもんな。怒られないのかこれ。こういう漫画が野放しにされてるあたり、まだまだ日本も捨てたもんじゃないなという感じ。もっとやれー。どうでもいいけどちょっとジャンプでやってる「デスノート」とかぶる。主人公の人間性はまるで逆だけど。

まあそういうわけでベスト5の漫画について書き終えたのだけども、正直4位とか5位は他に候補がないわけでもなくて微妙なところだった。すげー悩んだ。明日になったら後悔するかも知れないけど、でも、これが今の俺の素直な気持ちだから………………。っていうか漫画最高だね。もっともっと語りたくなってきた。これからはまめに漫画の感想とかを書けるようになるといいなと思った。おわり。疲れた。

Posted by iwakura at 23:53